紙芝居一家の物語

昔気質の紙芝居を生業としている島田文吉

芸には人一倍ウルサかった。

今日も今日とて、わずかな稼ぎに子供のためにと、惜しげのない芸を披露するのである。

長屋の自分の家でドンチャン騒ぎ。

なんだい、なんだい、俺の居ない間にみんなして安き節なんか踊りやがって。

実は隣の浩さんが宝くじが当たったんだよ、それも5千万円

兄貴俺に金貸してくれよ

私達だって金がほしいよ。

おい、お前も金持ってこい、この役立たず。

このやろう亭主に何てこと言うんだ、この酔っ払い。

お父ちゃん又ケンカして。              止めんなよ

アァ~ア、紙芝居屋はつらいね。

そこに娘の春を訪ねて友人が来た。

おい浩ちゃん、実は昨日かみさんとケンカして手が動かねえんだ、

俺の代わりに紙芝居をやってきてくれねえか。

俺は金持ちなんだ、俺の芸が下手って言うなら行ってやらねえよ。

代わりに弟子の俺らがやってやる、え、オメエが。

この字は何て言うの、ばか。

しょうがねえや、行ってやるよ。      兄貴俺も行く。

アァぁ、あんな下手な紙芝居じゃ俺の客が泣くよ。

お父ちゃん私は子供のときから紙芝居屋の子供だと言うんで随分イヂメラレたのよ、

だから私紙芝居屋は絶対にいや、だから私一流の女優を目指すの。

あら荻ちゃんどうしたの。

実はうちの先生が春さんに準主役をどうだろうってプロジューサーに話をしてくれてるの。

先生が待ってるって。

 おい、春、良かったな、いよいよお前も大スターだ。

お前又酒買ってきたな、お前は腎臓も肝臓もメタメタだ。

酒呑んじゃいけねえって先生が言ってただろう。

大女優の私が春さんを売り出してあげるわ。

プロジュウサーの前で春さんちょっと動いてご覧なさい。

台詞を言ってごらん。

 台詞にクセがあるね。

父が紙芝居屋なんです。

それが原因だ、そのクセは直らないな。

先生のお付きの私は踊れます。        君はいいよ。

まさえさん死んじゃだめだよ、春さんがもうすぐ帰ってくるよ、文吉さんは連絡取れないんだよ。

お母ちゃん死なないで、私が一流の女優になるまでは。

プロジューサーの藤田さんが私と春さんにご馳走してくれるって。

春さんだけでいいんだ、君は帰りたまえ。

春さん君を売り出してあげるからホテルにいこう。     え、ホテル。

お母ちゃんは死んじゃった。      私はどうすればいいの芸能界…。

 モト刑事の俺に何のようだい文吉さん。

お願いです。

実は私は32年前に親友を死なせてしまったんです。

どうか警察に連れて行ったください。

もう時効じゃねえのか。

私の良心が収まらないのです。

家にお父ちゃん居ないけど、なあにこの手紙。

春、実は父ちゃんはお前の本当の父ちゃんじゃねえんだ。

いままで誰にも言わなかったけどお前のお父さんは昔の俺の親友で、ある時偶然飲み屋であったんだ。

帰りにケンカして、お前のお父さんを殴ってしまったんだ。

死んだ原因は脳溢血と医者は言うけれど、あれは父ちゃんが原因で死なせたと思うんだ。
だからこれから警察に行くことにするよ。
オメエのお父さんは一流の大学を出て、霞ヶ関の官僚。
父子家庭でおまえを育てようとしたのに、オメエの人生を狂わせて、済まねえ。
男でひとつでオメエを育ててたんだ。それがあんなケンカして。

だから、オメエは紙芝居屋の子供じゃねえんだよ。

だから立派に堂々と芸能界で羽ばたいてくれ。

オメエは立派な一番星になってくれ。

何を言うよお父ちゃん、私は紙芝居屋の娘で幸せだよ。

これから紙芝居でお父ちゃんの帰りを待ってがんばるよ

人生一筋紙芝居、立派な職業で大きな星が輝いている。